防災士という資格を知っていますか?

皆さんは「防災士」という資格があることをご存じですか? 防災に関する一定の知識や技能を修得した人に与えられる民間資格です。東日本大震災や熊本地震などをきっかけに多くの人が防災の必要性を感じるようになったこともあり、防災士の資格を取得する人の数は年々増加傾向にあります。

ほかにも、災害時に私たちを助けてくれる知識や技能は、さまざまな資格を通して学ぶことができる時代になっています。今回は「防災×資格」をテーマに、災害への備えに役立てることができる資格の話をしていきます。

防災士という資格を知っていますか?

防災士は老若男女誰もがチャレンジできる

防災士とは、認定NPO法人 日本防災士機構が認定している資格です。防災に関する知識をまんべんなく学ぶことができます。この資格を取得した人には、学校や企業、各コミュニティーにおける防災力を高める活動や、災害時の防災リーダーとしての正しい率先行動が期待されています。

冒頭でも触れた通り、この資格への注目は年々高まっていて、2010年には約4万人だった防災士の取得者も、2020年には合計20万人を突破し、約10年間で4倍にまで膨れ上がっています。私も防災士の一人ではありますが、同じ資格を持つ人間が周りに少しずつでも増えてきた印象は確かにありますし、とても心強いことだなと感じます。

では、「防災士はどうしたら取得できるのか」という話ですが、下記3つのステップが必要になります。

  • 防災士養成研修講座を受講する
  • 防災士資格取得試験に合格する
  • 各自治体などが開催している救急救命講習を受ける

こうして文字にしてみると少し大変そうに見えるかもしれませんが、試験についても難易度は決して高くないものですし、やる気さえあれば、誰でも挑戦できる資格だと思います。それこそ、小中高生で防災士になった方を見かけることもよくあるくらいです。

防災士は老若男女誰もがチャレンジできる

「防災士の資格は何歳から取れますか?」
学校などに防災講演の仕事で行くと、このような質問を受けることがありますが、3つ目の取得条件である救急救命講習が「小学校中高学年から」とされているので、その年齢以上であればチャレンジすることができるといえます。

ちなみにですが、9歳で防災士を取った方が3人いて、その子たちが日本最年少防災士と言われています(2021年春現在)。また、最近では、福井県の双子の兄弟が、13歳で防災士の試験に同時合格して、「福井県最年少双子防災士」になるなど、若い世代の目標にも掲げられている資格になっています。

とはいえ、日本中を防災の仕事で巡る日々において、一番よく出会う防災士は、圧倒的にご年配の男性が多い現状もあります。2020年時点における防災士20万人の男女内訳は、女性が約3万5,000人、男性が約17万3,000人となっており、大きな差が開いており、そういった意味では、老若男女誰にでもオープンな資格ではありますが、偏りが強い資格であることも課題です。

防災士づくりを応援する動き

ご年配の男性が多いという話でしたが、若き防災リーダーを増やそうという取り組みを具体的に行っている場所もあります。例えば、徳島県では、高校生たちの防災士資格取得を支援しており、子供たちの背中を押してくれています。毎年希望する生徒たちに防災士養成研修講座を開き、その受講料を県が負担するなどして、徳島の防災力を底上げしているのです。

そして、この取り組みでは、生徒たちの講座に先生たちも参加することができ、教師陣の防災力にも注力しています。これまでに生徒と先生を合わせて、650人以上の防災士を輩出しており、徳島県による未来を守ろうとする気概が伝わってきます。

また、近年では、組織的に防災士の資格を取得する例も増えています。例えば、日本郵便株式会社では、長い年月をかけて「約2万人の郵便局長を全員防災士にする」という事業計画を進めています。毎年およそ2,000人が防災士の資格を取得しながら、地域の大きな力となっています。

このような各地域、各組織の取り組みが、確実に日本の防災力を底上げしてくれているように思います。

防災士づくりを応援する動き

他にもある?役立つ防災資格

防災に関する資格はこれしかないのかと言ったらそうではありません。防災士のように全体的にまんべんなく学ぶようなものもあれば、専門的な部分に特化して学ぶことができるものもあります。例として、3つの資格をご紹介します。

・応急手当普及員
事業所や自治会、自主防災組織などに対して、普通救命講習を開催して、心肺蘇生法などを教えることができる公的資格です。消防機関が主催するさまざまな講習や実技の末、筆記や指導実技の効果測定で合格することで認定されます。こういった救急救命に関する技能や知識が身に付くものは、災害の瞬間や直後に誰かを救う力に直結しますので、非常に重要な資格だと言えます。

・防火管理者
飲食店を経営する際などに取得が必要な国家資格です。テストもなく簡単に取得できてしまう資格ではありますが、建物における火災被害を防止するために、消防計画を作成したりするためのものになります。取得者の意識次第では、災害時の火災に備えた防災計画や防災対策に知識として活きる場合もあるかと思います。

・整理収納アドバイザー
こちらは文字通り、整理収納に関する民間資格です。散らかりにくい部屋、片付けやすい部屋を作れるようになります。その整理収納方法によっては、大きな地震が起きた時のケガ防止につながるなど、取得者の工夫次第で、この資格も防災の武器にすることが可能です。

整理収納アドバイザーのように、一見関係のないような資格も、災害時に私たちを助けてくれることは大いにあり得ます。究極を言えば、「実用英語技能検定(英検)」でさえ、海外国籍の方が避難に困っている時、海外旅行時に災害に遭った時、さまざまな場面で役に立つわけです。皆さんが持っている資格も、「防災に活かせるかもしれない」という視点で、改めて勉強し直しても、新たな発見があるかもしれません。

他にもある?役立つ防災資格

資格の意味

今回はここまで、防災士や資格に関するお話をしてきました。防災士の良いところは、何から勉強していいか分からないと思われがちな防災において、まとまった範囲を勉強させてもらうことができ、分厚い教科書も手元に残ることです。また、防災士同士で情報交換などをできる環境がある点も魅力だと思います。

ただ、正直なところ、防災士の資格がなくても何も問題はなく、防災はいろいろな方法で学べますし、防災士にしかできない災害対策というものもありません。身もフタもない話になりますが、「防災士の資格を取ったから災害が来ても安心か」と言われると、そうではないですし、「防災士ではない人よりも防災士は偉い」というわけでもありません。

資格取得のプロセスで得たさまざまな知識や技能を、自分の家庭やコミュニティーにどう還元していくのか。大きな災害が起きた時に適切な行動をどう率先して促せるか。資格を取った後のひとりひとりの行動にこそ意味があるのだと思います。私たちはその点を忘れないようにしなければいけません。

新型コロナウイルス感染症の影響によって、各資格の受講環境はイレギュラーになっている場合があります。もし、興味がある資格がありましたら、一度お調べになった上で、ぜひチャレンジしてみてください。


著者プロフィール

小川光一(おがわこういち)

小川光一(おがわこういち)
1987年東京生まれ。作家、映画監督。

国内外を問わず、防災教育や国際支援を中心に活動。日本唯一の「映画を作ることができる防災専門家」として、全47都道府県で講演実績がある。2016年に執筆した防災対策本『いつ大災害が起きても家族で生き延びる』は日本・韓国の二カ国にて出版されている。日本防災士機構認定防災士/認定NPO法人 桜ライン311理事ほか。現在、著書「太陽のパトロール~親子で一緒に考える防災児童文学~」が発売中。


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