コロナ禍の避難所、問われる防災力
2021年現在、私たちは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の猛威に直面しています。生活スタイルは大きく変化し、制約のある暮らしを続けて1年が経過します。そんな昨今、私たちは災害面でも大きな課題を抱えていることを、皆さんはご存じでしょうか。今回は「感染症の蔓延時に求められる防災力」についてお話していきます。
新型コロナ×災害で変わる避難所の形
新型コロナウイルス感染症が蔓延している状況(以下:コロナ禍)は、多方面に悪い影響を及ぼしていますが、災害発生時においても例外ではありません。実際にこの1年でも災害は各地で発生しており、その度に問題となっているのが「避難所のソーシャルディスタンス」です。
(出典:災害写真データベース)
このコロナ禍では、避難所に従来通りの人数を入れてしまうと、人と人が十分な距離を取れず、新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まってしまうので、「避難所の定員数を大幅に減らす」という必要があります。しかし、そうした対策を取ることで、「避難してきた人が定員オーバーで入ることができない」というジレンマが生まれます。
熊本南部地域を中心に日本全国に甚大な被害を巻き起こした「令和2年7月豪雨」や、九州全体に大規模な避難勧告が発令された「令和2年台風第10号」では、多くの市区町村が避難所を多めに開設するものの、満員となる避難所が相次いでしまいました。後者の台風における報告では、例えば、長崎県長崎市では260カ所中49カ所が満員に、熊本県水俣市でも21カ所中9カ所が満員になったとのことです。立地の安心性や設備の快適性がそれぞれ違う以上、私たちが各避難所に均等に逃げることはあり得ません。避難所に入ることができずにたらい回しの状態になった人も多かったと言われています。
だからといって、「新型コロナウイルス感染症に感染することが怖いから」という理由で避難しない判断を取るのは、非常に危険な考え方です。その判断によって、災害で命を落としてしまったら元も子もありません。もし、災害に巻き込まれる可能性がある場所にいるのであれば、早期避難は確実にしなければなりません。
避難の選択肢を複数持つ、という防災
・友人や親戚の家
高台や安全な場所に住む友人や親戚に「雨が強くなりそうな時は避難させて」と事前にお願いをしておくことも、私たちができる防災の一つです。避難をするべきか躊躇する人がよく口にする言葉の一つに、「空振りだったら恥ずかしい」というものがあります。しかし、この避難方法であれば、空振りになった場合も、「友だちの家に遊びに来ただけだし」「親戚のところに顔を出しに来ただけだし」など、自分の中で何となく理由を作ることができます。本当にお世話になるかは別として、友人や親戚にお願いして、避難の選択肢に加えておくことは非常に有効な手段だと思います。
(出典:災害写真データベース)
・車中泊
避難所では、感染症のリスクもある一方で、心理的なストレスを感じる問題もあります。車をお持ちの方は、一時的にそちらを避難空間として使うこともできます。そういった人向けに高台の駐車場を開放する対策などが各市区町村で増えていくと、避難所の緩和にもつながると考えられています。こちらも本当にするかは別として、そういった事態に陥った時のために、車中泊ができる車として備えを強化しておくことは、立派な防災の一つです。
・自宅滞留
自宅に留まるという判断には、ネガティブなものとポジティブなものがあります。前者に関しては、危険な地域に住んでいて、避難しなければならないにも関わらず、逃げるタイミングを逸した場合です。その場合は、建物内のなるべく高い場所にせめて垂直避難をしておく必要があります。
後者に関しては、マンションだったり、高台だったり、自宅に留まることを選んだ方がむしろ安全である場合です。自宅滞留を選んだ場合、避難所などに比べて、周囲からの助けを得にくくなりますので、万全な備えをしておくことが鍵になります。
コロナ禍の災害に対して、持っておくべきもの
・電力
避難を強いられるような災害が起きた場合、停電も同時に起きることが多くあります。前述した令和2年台風第10号では、大規模な停電が発生して、九州全域で約48万戸が停電しました。また、最近では2月に福島県沖で発生した地震により、関東から東北にかけて90万戸以上が停電したことも記憶に新しいかと思います。
自宅滞留や車中泊などにおいて、電力がない状態では、生活できることも限られますし、情報収集にも大きな差が生まれます。そんな中で大きな支えとなるのは電源供給源となるものです。それこそジャクリのポータブル電源やソーラーパネルであれば、安全に電気を使用しながら避難生活を送ることができます。一番小さいタイプのポータブル電源が1つあるだけでも、避難生活の質は大きく変わります。災害時はやはりストレスや不安が膨らむものですし、それが二次災害につながる場合もあるので、これほど強い味方はないと思います。
・備蓄
コロナ禍によって自宅滞留者が増えるとして、それぞれの備蓄力は改めて問われる瞬間があるかと思います。政府は「7日間×人数分の備蓄」を用意することを推奨しておりますが、正直なところ、それらを自宅や車に置いておくことはかなり現実的ではありません。
とはいえ、水が一滴もない場合と、1日分ある場合では、雲泥の差です。災害時において「72時間のボーダーライン」というものがあります。交通面や情報面が落ち着き、給水車や緊急支援が入ってくるのが、大体72時間(約1日)と言われています。そのため、「2日~3日分×人数分の備蓄」を用意しておくことが望ましいかと思います。
まとめ
今回の記事はここまで。「コロナ禍が特別」のように書かせていただきましたが、新型コロナウイルス感染症が収束すれば安心なのかと言えば、私はそうではないと感じます。自然災害と感染症の問題は今に始まったわけではなく、東日本大震災の際にはインフルエンザ、熊本地震の際にはノロウイルスなどが避難所で広まり、実際に二次災害に発展したケースもあります。何年後か、何十年後か、今回の新型コロナウイルス感染症よりも強い感染力を持つものが、災害時の私たちを脅かしてくる可能性も否定はできません。
さまざまな教訓を経て、避難所は今後も進化していくとは思いますが、それと同時に、私たち自身の生き抜く力も高めていく必要があります。ポータブル電源、水、非常食などをぜひ備えてほしいと思います。新型コロナウイルス感染症が蔓延している今だからこそ、「このタイミングで被災したらどうなるだろう」というような想像力を働かせて、各家庭の備えをいざという時のために強化していきましょう。
著者プロフィール
小川光一(おがわこういち)
1987年東京生まれ。作家、映画監督。
国内外を問わず、防災教育や国際支援を中心に活動。日本唯一の「映画を作ることができる防災専門家」として、全47都道府県で講演実績がある。2016年に執筆した防災対策本『いつ大災害が起きても家族で生き延びる』は日本・韓国の二カ国にて出版されている。日本防災士機構認定防災士/認定NPO法人 桜ライン311理事ほか。現在、著書「太陽のパトロール~親子で一緒に考える防災児童文学~」が発売中。