TikTokで若者も奮闘!みんなで覚える応急手当

皆さんは「災害への備え」として、どのようなことをしていますか?

家具を固定する。水を買う。ベッドの下にスリッパを置く。大なり小なり、いろいろな準備をされていることかと思います。数え上げ始めたらキリがない防災ではありますが、「知識を蓄える」「技術を身に付ける」といった、一見カタチのないものも、何にも代えがたい備えになります。

その中でも、特に重要なものの1つが「応急手当を覚える」という方法です。近年では動画アプリ「TikTok」を活用した応急手当ダンスがアジアの広告賞で入賞するなど、新しい時代なりの工夫も増え始めています。今回は「防災×応急手当」をテーマに、身に付けておくべき応急手当をご紹介します。

TikTokで若者も奮闘!みんなで覚える応急手当

応急手当はファーストステップの1つ

2021年7月12日更新の防災コラム「『災害心理』で防災力アップ~最初に取り組むべき備え~」にて、「私たちは無傷で助かる前提で、水や避難所などの災害後に必要なものに意識を向け過ぎていないか」「災害が起きた瞬間を生き延びるための備えがファーストステップではないか」というお話をさせてもらいました。

今回のテーマである「応急手当を覚える」は、まさにファーストステップにあたる防災アクションだと思います。

災害時、自分が負傷する可能性はもちろん、身の回りの人が負傷してしまうことも、大いにあり得ることです。そして、その災害が大規模であるほど、消防車も救急車もなかなか助けに来てくれません。

1995年に発生した阪神淡路大震災では、およそ35,000名が生き埋めになりました。その中でも、自衛隊員の方などが救出した8,000名のうち、約半数が命を落としてしまったと言われていますが、近隣の住民が救出した27,000名のうち、約8割が生き延びることができたとも言われています。いかに災害直後の応急手当が重要であるかがよく分かるかと思います。

誰が大怪我をするかは分からない

応急手当には、覚えていく上で大切にしてほしいポイントが1つあります。それは「周りと一緒に」という視点です。

私は、防災講演の仕事をする時、応急手当に関する話題の中で、「家族も一緒に覚えていますか?」「職場の人も一緒に覚えていますか?」と必ず確認するようにしています。

応急手当は子どもの頃から聞く話ですし、防災に関する情報メディアでも頻繁に目にします。しかし、実際のところ、自分しか覚えていないかも、というような人が非常に多いのが実情です。

自分だけが応急手当を知っていたとしても、その肝心な自分が災害で大怪我をしてしまったら、周りの人間に助けてもらえません。逆に、「家族が知っているからいいや」という理由で自分が覚えていなかったとして、自分以外が大怪我してしまったら、助け方が分からずに見捨てるという悲しい選択をしなければなりません。

応急手当はぜひ、友人や家族、職場の同僚など、自分が暮らすコミュニティーの人たちと一緒に覚えて、緊急時に適切な行動を取れるようにしておきましょう。代表的な応急手当の方法について、以下ご紹介します。

代表的な応急手当の方法

①出血している場合

出血は本人も周りもパニックになりやすいですが、真っ先に止血の手当てをしてください。噴き出るような血でも、多くの場合で「直接圧迫止血法」で止めることができます。

まず、他人の傷口に触れる可能性がありますので、感染症などの予防が必要です。血液に触れないように自分の手をレジ袋などで覆ってください。そして、傷口にガーゼやタオルなどの清潔な布類を当て、その上から強く押さえてください。もし出血量が多い時は、傷口を心臓より高い位置に持っていくことで出血の量は減ります。

また、直接圧迫止血法が使えない場合、準備に時間がかかる場合には、「間接圧迫止血法」を行います。出血箇所から心臓に近い動脈を、指で押さえ込む方法です。

②骨折している可能性がある場合

病院に行くまでの間、骨折箇所が動かないように固定する必要があります。その際に大切になってくるのが副木(ふくぼく)という存在です。骨折した部分を臨時的に固定するものを指しますが、杖、傘、ダンボールなど何でも代用することができます。

副木と骨折箇所の上下をその場にある布類で固定します。そして、骨折した部分が動かないように、シーツなどを使って腕を吊ります。余裕があれば、胸部も固定すると効果があります。

③心肺が停止していた場合

まず、肩を優しく叩きながら「大丈夫ですか?」と声をかけます。もし、反応がないようであれば、「助けてください!」と大声で叫んで、周りに注意喚起をします。

もし、それでも誰も来なければ、応急手当よりも先に119番通報。そして、AED(自動体外式除細動器)の場所を知っているのであれば、すぐに取りに行きます。

AEDはさまざまな施設に置いてありますが、その施設の従業員に聞くことが一番の近道です。また、設置場所によってAEDを取ると警報が鳴る場合がありますが、気にせずに負傷者の元に戻ってください。周りに人が集まって来た場合は、119番通報とAED探しを依頼して、すぐに応急手当に移ります。

応急手当では、最初に呼吸の確認をします。もし胸やお腹が動いていなければ、すぐに心肺蘇生法を行います。心肺蘇生法は「胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返し行うこと」を指します。もし意識が戻らない場合、救急隊が来るまで継続して行う必要があるので、交代で行う旨を周りに集まって来た人にあらかじめ伝えておくとスムーズです。

  • 心肺蘇生法

    ①胸骨圧迫・・・圧迫部位(胸部における左右上下の真ん中)に手のひらの手首際を当て、その手の上にもう一方の手を、指を重ねる形で置きます(乳児の場合は指2本)。両ひじを伸ばし、自分の手のひらの真上に肩が来るような姿勢を取り、30回圧迫します。1分間に100~120回ペースです。

    心肺蘇生法

    ②人工呼吸・・・片手で額を抑えながら、もう一方の手の指先であごを持ち上げ、気道を確保します。1秒間ずつかけて息を2回吹き込みます。なお、マウスピースなどを所持しておらず、口同士が直接触れることが望ましくない場合、人口呼吸を省略して、心臓マッサージだけ続けても構いません。ただし、窒息や溺水、子どもの心肺停止の場合、人口呼吸の実施が望ましいとされています。

    人工呼吸
  • AED(自動体外式除細動器)
    箱から出すか電源を入れると、音声ガイダンスが流れます。指示に従いながら、パッドを装着します。

    ②自動的に負傷者の心電図を解析して、必要性に応じて電気ショックを流す準備が始まります。感電防止のために誰もAEDに触れていないことを確認して、ボタンを押します。


    AED(自動体外式除細動器)

WEB講習にTikTok、1人でも多く応急手当を知ってもらうために

今回は応急手当についてご紹介しました。心肺停止から5分以内に、AEDで心肺の動きを良い状態に戻すことができれば、負傷者の蘇生と社会復帰の確率を大きく高めることができると言われています。例えば、「救急隊が来るまで何もせず、彼らが到着してから処置した場合」よりも、「私たちがその場ですぐにAEDを使った場合」の方が、負傷者の社会復帰率が2倍以上になるという調査報告も出ています。素早く的確に行動できるかどうか、1人でも多くの人が心配停止時の応急手当をしっかりと覚えている必要があります。

日本全国の各自治体では、「救命講習」というものが定期的に行われています。入門的なものから、指導者になるためのものまで、さまざまなコースがあります。昔に受けたことがある方も、今まで受けたことがない方も、友人や家族、職場の同僚などを誘って参加していただきたいと思います。

最近では、eラーニングで応急手当の基礎知識を学ぶことができるようになっています。この10年間で急激に発達したインターネットや映像技術のおかげで、いつでもどこでも応急手当について学べる時代になりました。もちろん実際の講習を受けられるに越したことはありませんが、このように受講しやすい環境が年々増えていることは非常に有意義なことに感じます。

また、新時代ならではの普及方法も挑戦されています。動画アプリ「TikTok」では、2019年に「 #BPM100 DANCE PROJECT」というものが流行りました。胸骨圧迫の方法をもとに開発された振り付けを、若者たちみんなで踊るという企画でした。

「心肺蘇生法」の項目にあった「1分間に100~120回ペース」、文章で見ても正直ピンと来ない人も多いと思います。このダンスでは、手を胸骨圧迫の形にして、1分間に100回ペースで腕を上下に動かします。胸骨圧迫のスピードが楽しく分かりやすく身に付くこのプロジェクトは、アジアで最も栄誉ある広告賞「スパイクスアジア2019」にて2部門入賞する快挙を成し遂げました。従来通りの方法だけではなく、これからもさまざまな工夫をしながら応急手当の方法を広めていくべきと感じます。

「知識を蓄える」「技術を身に付ける」といった一見カタチのないものも、「防災」としてたくさんの命を救ってきた歴史があります。今回紹介した「止血」「骨折固定」「心肺蘇生」以外にも「傷病者を安全な場所に動かす方法」や「熱傷の処置方法」など、さまざまな応急手当があります。ぜひ1つでも多く覚えて、自分の防災力につなげてほしいと思います。そして、その知識や技術を周りの人にも伝えていってください。


著者プロフィール

小川光一(おがわこういち)

小川光一(おがわこういち)
1987年東京生まれ。作家、映画監督。

国内外を問わず、防災教育や国際支援を中心に活動。日本唯一の「映画を作ることができる防災専門家」として、全47都道府県で講演実績がある。2016年に執筆した防災対策本『いつ大災害が起きても家族で生き延びる』は日本・韓国の二カ国にて出版されている。日本防災士機構認定防災士/認定NPO法人 桜ライン311理事ほか。現在、著書「太陽のパトロール~親子で一緒に考える防災児童文学~」が発売中。