【BCPコラム第2話】命を守る行動と業務環境の整備

「想定外」では済まされない状況への準備を

災害発生!即BCP発動…ではない

突然大地震が発生したら、あるいは建物周辺に大雨などによる避難指示が発表されたら、会社としてはどのような対応をとるか決めているでしょうか。「BCM・事業継続マネジメント」には、従業員や顧客の安全確保、事業継続に向けた計画、そして初動対応の準備などが含まれていますが、発災直後にはまず何をすべきでしょうか。

大地震が発生したら「偉い人たち」がヘルメットをかぶりながら会議室に集まり、対応に関する指示を颯爽と出す。このような状況が作れればもちろん良いのですが、災害発止時にまず行わなければならないことは、「身の安全を確保」する行動です。災害から安全を確保し、そして初めて初動対応に取りかかることができるようになります。

主な災害

火山:7.4%


世界にある1,500箇所の火山のうち、111箇所が日本に

台風:10


毎年どこかの陸地に上陸する台風約40個のうち、1割が日本に。

地震:13.7


直近100年で生じたM6以上の大地震、日本は年17.5回発生。

初動対応1・安全確保と環境整備

発災時にまず行うのは、従業員と顧客の生命を守り、安全を確保するための行動です。平時の業務においても、非常時における対応においても、安全が確保されなければどのような行動を取ることもできません。「BCM・事業継続マネジメント」の要素には「命を守る防災対策」がありますが、これを発災時に使う準備を初動対応として計画することが重要です。

さらに、ライフラインに被害が生じて停電や断水が生じた場合、これを代替しなければ活動を行うことができなくなります。事前対策として各種の防災用品や備蓄品を準備し、非常時にすばやく展開するための準備をしておきます。これら、非常時の行動をまとめた初動対応計画は見れば分かるマニュアルにし、誰でも使えるようにすることが必須です。

初動対応2・情報収集と状況判断

身の安全を確保したら、次に行うのは情報収集です。大規模な災害が発生した場合、社内外にどのような被害が生じているのかは調べなければ分かりません。被害が軽微であれば非常時体制に移行する必要はありませんが、被害が甚大であれば、優先順位に従った事業継続行動を取る必要があります。これを判断する材料集めが情報収集です。

非常時への備えとして安否確認システムなどを導入することがありますが、これも情報収集の一環です。「人」という重要な経営資源が現在どのようになっているのか、これを調べるために安否確認システムを活用します。被害情報が不明であれば意思決定者も判断を下すことができません、すばやく情報収集を行うための準備が必要です。

初動対応3・BCP発動

社内外の被害状況を集めた結果、被害が甚大であると判明した場合。あるいは、情報収集がままならずに状況が不明となる場合は、非常時体制へ移行します。これがBCPを発動するという状況になりますが、事前に定めた優先順位に従い、非常時において特に重要な業務へ使用できるリソースを集中させて、事業の継続を図ります。

非常時には内部の状況・外部の状況ともに変化し続けるため、状況にあわせた経営判断を連続的に行う必要があります。こうした状況において役立つのが対策本部です。常に情報を更新し、その情報に従って判断を下す、そのための場所や組織の立て方を事前に計画することも、初動対応計画のひとつとなります。

発災直後の緊急対応

台風や大雨などの風水害では、災害が発生する前にニュース報道などを通じて注意が呼びかけられます。また感染症パンデミックなどの状況においても、ある朝突然パニック的な状況が生じるということはなく、何かしらの予兆を持って被害が拡大します。しかし、大地震については事前予知ができないため、発災直後の「緊急対応」が必要になります。

事業継続マネジメント(BCM)とは?

救助活動

業務時間中に大地震が発生した場合は、社内で物理的な被害が生じる恐れもあります。

家具の転倒や什器の移動で押しつぶされる

荷物の落下やガラスの飛散の直撃を受ける

倉庫や会議室などに閉じ込められる

大規模災害時には、道路の閉塞や多数の様救助者発生のため、119番通報をしてもすぐに消防・レスキューが駆けつけられない可能性があります。そのため、社内で要救助者が生じた場合には自力での対応が必要となり、そのためには道具の準備などが必要になります。

要救助者が生じそうな場所などをまとめたフロアマップを作る。

救助用品(バール・ジャッキ・ノコギリ・グローブ・ライト)を用意する

日頃の防災訓練に参加し、こうした道具の使い方なども学んでおく

道具を準備する場合、平時の収納や非常時の持ち運びを考えると、「セット」品を購入するのが確実です。室内の救助活動で生じやすい「重量物除去」を行うために、「ジャッキ」と「バール」が含まれているものを選択してください。なお、建物が木造であったり、木製家具が多かったりする場合は、ここに「ノコギリ」を追加してください。

各種の救助用品(バール・ジャッキ・ノコギリは特に重要な道具とされる)

図:各種の救助用品(バール・ジャッキ・ノコギリは特に重要な道具とされる)
撮影:高荷智也 出典:神戸市・人と防災未来センター

応急手当

災害の影響で道路の通行ができなくなり、また大量の負傷者への対応で医療機関がパンク状態になると、119番通報をしても救急車がすぐに来られなくなるため、救助活動同様に社内で対応をする準備が必要です。災害時に生じやすい、打撲・捻挫・骨折・切り傷・火傷などの外傷に対して応急手当ができるように、道具を準備しておきます。

災害発生時にどのような手当を必要とする負傷者が、何名程度発生するかを想定することは困難ですので、いわゆる「応急手当セット」を購入するのがよいでしょう。数量の目安としては、「同時に事業所にいる可能性のある最大人数」×510%」程度を負傷者の数と想定し、「○人用救急セット」などを準備してください。

BCMに含めるべき項目

AEDと緊急搬送

近年普及が進んでいるAED(自動体外式除細動器)は、導入と維持にコストがかかるため場合によっては「社内には設置しない」という選択肢もあります。この場合は、「どこに行けばAEDがあるか」を事前に調べておき、防災マニュアルなどに地図・フロアマップとあわせて記載しておくことが重要です。

また、非常時に備えた救助・応急手当の準備は重要ですが、重傷者が発生した場合は医療機関への自力搬送が必要となります。このための準備としては、まず搬送先となる「医療救護所」または「災害拠点病院」などを調べておき、紙の地図にマッピングしておくこと。そして、負傷者を移動させるための担架や、階段昇降の器具を準備しておくことが必要です。

AEDと救助用品セット(分かりやすい場所への設置が重要)

図:AEDと救助用品セット(分かりやすい場所への設置が重要)

撮影:高荷智也 出典:東京都千代田区・パレスサイドビル

火災への対応

  • 社内の建物から出火した場合は、火災に対する初期対応が必須となります。まず火災を発見した個々人の対応としては次の3点が重要です。

    叫ぶ:発見者は「火事だ!」と大声で叫び、火災の発生を知らせます

    押す:火災報知器のボタンがあればこれを押し、建物内に非常ベルを鳴らします

    呼ぶ:電話が通じるようであれば、大地震の際にも119番通報は必須です

    この3点の行動を行い、火災の発生を知らせ、応援を呼ぶことができたら、さらに初期対応を実施します。具体的には次の通りです。

    初期消火:初期の普通火災は自力で消火可能です。建物内に設置されている消火器・消火栓を用いて対応を行います。利用経験が無いと

  •                     とっさの対応ができませんので、日頃の消火訓練などに参加しておくことが重要です。

    時間確保:建物内に防火扉・防火シャッターがあればこれらを閉鎖。また排煙設備があればこれを開放して煙を屋外へ排出させます。防

  •                     災マニュアルなどには、こうした設備・ボタンの場所をフロアマップとあわせて記載します。

    避難誘導:初期消火などに携わらない人をすばやく逃がします。逃げ遅れが生じない様に、救助用のフロアマップを使いながら、閉じ込

  •                     められたり、身動きが取れなくなったりしている人がいないかを、確認できるようにしておきましょう。

発災直後の避難対応

  • 大地震により津波・土砂災害・地震火災(大規模な延焼火災)が生じている場合。あるいは台風や大雨の影響で避難指示が発表され、建物に留まると命に危険が生じるような場合は、すばやく安全な「避難場所」へ逃げる必要があります。ハザードマップを使用し、避難方針の確認と、素早い避難の準備を事前に行うことが必要です。

    コラム第1では、災害発生時の影響をあらかじめ可視化した地図「ハザードマップ」を紹介しました。建物周辺のハザードマップを確認することで、津波・土砂災害・洪水などが発生した場合に、屋外へ逃げるべきなのか、建物内に留まるべきなのかを判断することができます。その場に留まると命に危険が生じる場合は、避難場所がどこかを確認しておきます。

    屋外への避難が必要となる場合は、いわゆる防災リュックなどを事前に作成しておき、避難席で必要な道具をすぐに持ち出せるようにすることが重要です。また事業継続上、持出が必須となる重要書類や物品がある場合は、これもリストにしておき素早く確実に搬出ができるように、準備を整えておきましょう。

終わりに

  • 今回は初動対応における重要な初期活動、緊急対応に関する解説をいたしました。発災時にはBCM策定に携わった「防災担当者」が不在となる場合もあるため、特に緊急対応で必要な道具・情報は、誰でもすぐに扱えるようにしておく必要があります。読めば分かるマニュアルにまとめておく、普段から目に付く場所に道具を設置するなど工夫をしてください。

    次回のコラムでは、緊急対応とあわせて行っていただきたい「ライフラインの代替対応」と、都市部の大規模災害で問題となる、「帰宅困難対策」への備えを解説いたします。

非常時に使う道具は「見せる収納」で目に付く場所へ保管することも有効。

図:非常時に使う道具は「見せる収納」で目に付く場所へ保管することも有効。
撮影:高荷智也 出典:ファシル株式会社・災害用備蓄スタンド BISTA


【コラム】非常時におけるポータブル電源の活用

【コラム】ポータブル電源で命を守る「照明」を確保

人は明かりが無ければ身動きひとつ取れませんが、これは発災時の緊急対応でも同様です。救助活動や応急手当などを行う際には、安全確保と作業の効率を上げるためにできるだけ多くの照明器具が必要になります。防災用品として、ヘッドライトやランタンなどを準備しておきたいところですが、ここで役立つのがポータブル電源です。

コンセントに挿して使うタイプの照明器具は、乾電池やバッテリーで動作するものよりも明るく、広い範囲を照らすことができるものが多くあります。平時の業務において、現場用・撮影用などの照明器具を保有している場合は、ポータブル電源を併用することで、非常時における貴重な明かりを大規模に確保することができるのです。

照明器具は設置場所が重要になりますので、非常時にも活用したい場合は延長コードなどとあわせて準備しておきましょう。もちろん、充電タイプの照明器具がある場合も、ポータブル電源を併用することで、より長時間活用することが可能となります。命を守るための明かりを、ポータブル電源で確保しましょう。

【コラム】ポータブル電源で命を守る「照明」を確保