キャンプが育てる防災力

皆さんは「昔に経験したことが、今違うことでも活かされている」と感じる瞬間はありますか? 学生時代の何気ない努力が、社会人になってから真価を発揮するなど、私たちの経験は大きな輪の中で、一つにつながっています。

防災についても同じことが言えます。大きな災害が起きてしまった時、ひっ迫した状況下を生き抜いていく上で、防災の知識に限らず、あらゆる経験が私たちを助けてくれます。その一つとして、今回は「防災×キャンプ」をテーマにお話していきます。

キャンプが育てる防災力

防災とキャンプの親和性

まず、「キャンプ」という言葉についてですが、「野外で一時的に生活や宿泊をすること」を指します。今では人気アウトドアとして確固たる地位を確立。年々そのスタイルも多様化しており、ソロキャンパーの存在も増え始めています。

では、実際にキャンプではどんなアクションが行われるのか。それこそ非日常の中、過ごし方は自由です。自然を眺めて癒やされたり、バーベキューをしたり、本を読んだり、スポーツをしたり。それぞれの趣向によって分かれるところではあります。

しかし、どんなキャンプでも共通して行われることがあります。それは「生命を維持するためのアクション」です。電気などのインフラがない中で、手元にあるものだけで工夫して過ごす力が問われるキャンプですが、「体温を保つ」「清潔な水や栄養源を確保する」などといった行動が、まずは大前提として行われることになります。

これは災害時における状況及びアクションと非常に似ており、「キャンプの経験はそのまま災害時にも活きやすい」といわれています。キャンプは、防災に対して非常に親和性が高いレジャーなのです。

防災とキャンプの親和性

その証拠に、「防災キャンプ」というイベントも増え始めています。私は防災講師の仕事で全国各地に呼ばれることがありますが、防災キャンプから声がかかる機会も、この数年で多くなってきました。

自治体や企業などによって開催されるものが多く、家族や地域の人たちとキャンプ自体を楽しみながら、そこに防災要素を取り入れていくものになります。非常食をアレンジ調理するところもあれば、炊き出しをするところもありました。防災カルタをするところもあれば、子どもたちがドローン操縦の練習をしているところもありました。そういった体験の最後などに、私が作った防災ドキュメンタリー映画や防災スピーチを視聴することになるので、いつも参加者の方々の真剣な表情が印象に残ります。

キャンプを楽しみながら防災力を磨く。ただ勉強するだけで終わらず、ただ楽しいだけで終わらない。防災とキャンプは、お互いに対して相乗効果があるように感じます。

キャンプを楽しみながら防災力を磨く

災害時にも力を発揮するアウトドアアイテムたち

キャンプで触れる知識や技術が災害時に活きることは前述しましたが、防災とキャンプが一緒に語られやすい理由はもう一つあります。「アウトドアアイテム自体が、そのまま防災グッズとしても使える」という点です。

いざという時まで出番のない防災グッズも多いですが、アウトドアアイテムに関しては、キャンプに持ち出すことで、使い慣れておくことができます。今回は「生命を維持するためのアクション」に焦点を当てながら、災害時にも力を発揮するアウトドアグッズ2点に触れてみたいと思います。

・テント

一つ目は「テント」です。設置が大変なイメージを持たれる方もいると思いますが、最近はワンタッチ式、ポップアップ式と呼ばれる簡単に設営できるテントが増えてきました。

「テントなんて、キャンプでは役立っても、災害時には役に立たないんじゃない?」と思う方もいるかもしれませんが、テントはさまざまなスペースを作ることができます。たとえば、災害用トイレと組み合わせれば、緊急時の簡易トイレスペースになります。ほかにも、更衣室としてはもちろん、授乳スペースとしても利用できますし、大きなテントを使用すれば、お風呂場を作ることも可能です。使い方次第によっては、キャンプ時のテントよりも、大きな可能性に満ちているアイテムだと思います。

私たちは自宅滞留などを選ぶことによって、避難生活を回避することもできます。テントを張らなくて済む場合も多いかもしれませんが、あくまでキャンプで使うものとして、さらに災害時にも使えるものとして、持っておくと心強いかもしれません。

・ポータブル電源

そして、二つ目は「ポータブル電源」です。大容量の電力によって、停電状態を解消することができ、さまざまなアクションに転じることができます。

「電気なんて使えなくても問題ない」という方も少なくないと思います。しかし、大災害によって各インフラが壊れてしまったとして、不運にもその時期が真夏や真冬だったらどうでしょうか。暑さや寒さによって、命の危険に晒される「二次災害」の危険性もあります。

そういった場合、ポータブル電源には、モバイルバッテリーでは基本的に使用できないAC出力があるので、扇風機や電気ストーブを稼働させることができます。まさしく「体温を保つ」という重要なアクションになります。少し大げさかもしれませんが、ポータブル電源によって人の命が救われる瞬間もきっとあると思います。現代だからこそ打つことができる非常に強い防災アクションに間違いありません。

また、生命維持という大きな枠からはそれますが、ポータブル電源があることで、ストレスを緩和させたり、情報収集をしたり、災害後のメンタルを落ち着かせたりできることも、大きな強みです。

防災グッズ:ポータブル電源

ほかにも寝袋やサバイバルナイフなど、災害時に活かせるものはたくさんありますが、個人的には「キャンプの際にポリタンクを使って生活すること」もおすすめします。水がどれだけ減ったかを見ることで、自分や家族の使用量を計ることができるからです。それを目安に備蓄することで、水不足に陥る状況などを防ぐことができます。「これって災害時にも使えるかも?」といったように、防災思考を持ちながらキャンプをしてみると、思いがけない発見があるはずです。

まとめ

今回は、キャンプと防災の親和性について触れました。キャンプで感じる不便さ、小さなトラブルを解決していく経験は、災害時に必ず活きてきます。キャンプで培われる生き抜く力は、災害時に問われる生き抜く力に直結していると私は考えています。

そういったキャンプ経験が一度でもある人と、一度もない人では、厳しい環境に放り出されてしまった時の心構えにも大きな差が生まれるかと思います。便利に囲まれた時代ではありますが、それに甘え過ぎずに、不便さも知っておく必要はあるのかもしれません。

新型コロナウイルス感染症の影響で、アウトドア指向になっているこのご時世でもあります。休日や長期休暇に、防災を意識しながらのキャンプ、ぜひ選択肢に入れてみてはいかがでしょうか


著者プロフィール

小川光一(おがわこういち)

小川光一(おがわこういち)
1987年東京生まれ。作家、映画監督。

国内外を問わず、防災教育や国際支援を中心に活動。日本唯一の「映画を作ることができる防災専門家」として、全47都道府県で講演実績がある。2016年に執筆した防災対策本『いつ大災害が起きても家族で生き延びる』は日本・韓国の二カ国にて出版されている。日本防災士機構認定防災士/認定NPO法人 桜ライン311理事ほか。現在、著書「太陽のパトロール~親子で一緒に考える防災児童文学~」が発売中。


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