【冒険の記録】“無駄づくり”から見える世界とは コンテンツクリエイター藤原麻里菜さん

【冒険の記録】“無駄づくり”から見える世界とは コンテンツクリエイター藤原麻里菜さん

その道をリードする人に、これまでの歩みについてお伺いする「冒険の記録」。独創性とユーモアあふれる“無駄づくり”という発明で世界から注目を集める、コンテンツクリエイターの藤原麻里菜さんに作品作りの秘訣や「無駄」にこだわる理由についてお話を伺いました。

真面目にふざける、無駄づくりとは

真面目にふざける、無駄づくりとは

1993年生まれの藤原麻里菜さんは、2013年からYoutubeで「無駄づくり」を公開。独学で学んだという電子工学、3Dプリンターなどを駆使しながら、現在までに200個以上の作品を制作し、発表しています。2018年には台湾で個展を開催し、2万5,000人以上を動員。2021年には経済誌『Forbes Japan』の「世界を変える30歳未満の30人」にも選ばれた、注目のクリエイターです。

真面目にふざける、無駄づくりとはー藤原麻里菜

――藤原さんが作るものは本気でふざけていて、その本気度合いとふざけのバランスがなんとも味わい深く、おかしみがあります。
「ものを作る時は、ちゃんと動くものを作ろうっていう本気はあります。でもやっぱり、アイディアの中にユーモアがあったり、ユニークなものを作るということは目指していますね」

――そもそも無駄づくりを始めたきっかけは?
「最初は、NHKの『ピタゴラスイッチ』という番組のような装置を作りたくて、ドミノなどを買っていろいろやっていたんです。3週間くらいかけても上手に作れなくて、ゴミみたいなものができちゃって。失敗ではあるんですけど、これを失敗にしたくないなと思ったときに、無駄なものを作ったということにしたら、これも成功になるなと思ったんです。そこで初めて“無駄づくり”と名付けて、ずっと続けている感じです」

――早い段階でコンセプトなどは固まっていましたか?
「コンセプトらしいものは特になくて、ただ思いついたものを作るというのが一番のコンセプトです。それを続けていくうちに、こういう無駄もあるんじゃないかなとか、自分の中でその時々で興味のあるものを作っていたという感じですね」

藤原さんの「無駄づくり」作品の一部

心がワクワクするほうへ

心がワクワクするほうへ

――無駄づくりの際に心がけていることは?
「心がけていることはあまりないかもしれません。ただし、自分が楽しいかどうか、生み出す過程でワクワクするかは重要です」

――日々を送る中でそのワクワクになかなか出合えない方もいるのかなと思います。藤原さんのワクワクはどこから湧いてくるのですか?
「私の場合はアイディアを思いつくことでワクワクしますし、アイディアがあることで人生が押されていっているような感じがしています。アイディアは内から湧いてきますが、これは私が特別なのではなく、おそらく本来はみんなが持っているものなのだと思います。例えば、今日の晩ご飯は食べたことがない、ロシアの料理を食べてみようとか、そういう思いつきでもすごいワクワクするし、人生が動かされているような気がすると思うんです。私もそういう感覚で、じゃあ今日はこれを作ってみよう、みたいなアイディアが自分を突き動かしてくれている感じがします」

――そのワクワクの裏には、生みの苦しみやどんな試行錯誤がありますか?
「思いついたら結構すんなり作れますし、作るスピードがとても早いんですね。それに苦しいことがあったらやめちゃうので、苦しさみたいなものはあんまり感じてないです。ちょっと失敗しちゃったなと思っても、トライアンドエラーというか、だったらこれを作ろうという、切り替えもすごく早いんです」

――アイディア出しをされる時はどうしていますか?
「思い浮かんだアイディアをノートに書き留めておくことが多いですね。アイディアを考えるときは散歩したり、眠りにつく前の目をつぶっている時間だったり、そういうときに無意識の中に自分を閉じ込めるようにしています」

――アトリエの本棚を拝見するといろいろなジャンルの本が並んでいますが、インプットはどうされているんですか?
「インプットをするために人の作品を見るとかっていうのがあんまり好きじゃなくて。本を読むとか、絵画を見るとか、映画を見るとかっていう行為って、純粋に楽しいからだし、作品に浸りたいからなんです。そこは結構切り分けています。結果として、そこから着想を得ることも多いですが、でもインプットのためにという感じはないですね」

藤原麻里菜

“無駄”をどのように捉えるのか

“無駄”をどのように捉えるのか

――藤原さんのユニークな作品にいつもニヤリとさせられますが、そもそも“無駄づくり”という発想自体が素晴らしい発明だと感じています
「無駄ってとても曖昧な言葉なんですけど、無駄なものって結局みんなすごく好きだと思うんです。効率化とか合理性を求められがちですが、人間は別になくてもいいもの=無駄なものに惹かれる部分ってやっぱりあるんだと思います」

――“無駄”というものに対するスタンスとは?
「私の“無駄づくり”の肝の一つになっているのが、プリストン高等研究所というアインシュタインなどを輩出した研究所の創設者のひとり、エイブラハム・フレクスナーの『有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ』という言葉です。人間って役に立つか、立たないかということを自然とふるいにかけ、役に立つことをやってしまったり、選択したりという部分もやっぱりあると思うんです」

――ここ数年は「効率化」や「役立つ情報」に価値が置かれ過ぎてその反動が起きているように感じます
「そうですね。フレクスナーは、役に立たないことでもやることで何か新しい価値とか、好奇心のままに自分の好きなことを追い求めることで、それが今は役に立たないっていう価値でも、未来にとっては新しい価値が生まれるんじゃないかと言っているんですね。私はその言葉がすごく好きで、そういう「役に立つかどうか」の価値基準で物事を判断することで、人間としての可能性みたいなものが狭まってしまうんじゃないかなと思っています」

子供の時からものづくりが好きだった

子供の時からものづくりが好きだった

藤原麻里菜

――子供の時はどんなお子さんでしたか?
「子供の時からものづくりはすごく好きでした。人形の服とか小道具みたいなものとかを作っていました」

――最初に作ったものは何でしたか?
「人形の家に井戸がほしくて、紙粘土で作ったのを覚えています」

――夢はなんでしたか?
「なんとなく面白いことをやる人になりたいなって思っていました。でも、その職業ってよくわからなかったというのが大きいです」

高校卒業後は、吉本総合芸能学院(NSC)に入学し、卒業後にお笑い芸人としても活動しつつ、動画をアップしてきた藤原さん。次第に自らの注目度について認識したという。

――変化を感じたのはいつ頃ですか?
「2018年に台湾で個展をやって、結構な人が来てくれたり、2019年に総務省主催の『総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門』に選ばれたりして、なんとなく認められてきたなというのは感じましたね」

――2022年は会社を作られたり、ラジオの帯番組に出演されたり、いろいろな挑戦をされています。次の展開と捉えていいのでしょうか?
「仕事に関しては自分から何かをやるっていうより、お話が来るなどの外からの刺激があり、それで乗っかることが多いですね」

――乗っかったことで、藤原さんの中での変化はありましたか?
「見えない景色が見えるというか。普通に自分ひとりで考え込んでやっていたら見えなかったところとか、行けなかった場所とかに連れていってもらえる感じがあります」

――人から言われてハッとしたことや印象に残っている言葉はありますか?
「先日、小説家の吉村萬壱さんと対談をした際に『90歳になってもこの活動は続けられるでしょ』と言われて、確かにそうだなと思いましたね」

必要なのは体力的なものではない。思考力や発想力、想像する力のフレッシュさ、柔軟性を保てれば続けられる。そして何よりも大切なのが、ワクワクできる心をもっているか。これからも藤原さんの素敵な発明や活躍が楽しみだ。


藤原麻里菜(ふじわら まりな)

1993年、神奈川県横浜市出身。コンテンツクリエイター、文筆家。株式会社無駄 代表取締役社長。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を中心にYouTubeなどで活動。2022年、青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞を受賞。『無駄なことを続けるために』(ヨシモトブックス)、『考える術』(ダイヤモンド社)などを上梓。
https://fujiwaram.com


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