ポータブル電源選びの決め手「正弦波」とは
ポータブル電源は持ち運びができて家庭用の電化製品が使用できるため、様々シーンで使用されています。電流は「交流(AC)」と「直流(DC)」の2種類があり、電化製品を使う場合には「交流」が必要となります。この「交流」は波形により様々なタイプに分けられていますが、電化製品は幾つかある交流波形のうち、正弦波(せいげんは)を前提にして作られています。今回は電化製品に正弦波を使用した場合やそれ以外の波形を使用した場合など、正弦波について解説いたします。
正弦波とは
正弦波と聞いて高校数学で習った三角関数を連想する方は多いと思います。
正弦波は三角関数の一つであり、「sin」で表され、円の関数におけるy座標を表します。sinは日本語で正弦と言いますので、正弦波はsinの関数のことを指しています。一方のx座標を表す関数は「cos」ですので、このsinとcosを合わせて円の関数が作られます。このsinをy軸にとり、x軸に時間や距離などの変数をとると正弦波ができます。
つまり、正弦波とは円運動を時間や距離の関数で表したものになります。実際の波形はプラスとマイナスの電圧が交互に変化し、波の形状となっています。
交流電流が正弦波になる理由
一般的によく知られているように、交流電流も正弦波で表されます。交流電流が正弦波になる理由は、発電のメカニズムに起因しています。
発電をする際には、モーターやタービンなどを回転させますが、この際に発電される電気はモーターの回転に応じて出力されますので、モーター内の回転子の回転に応じてプラスとマイナスが交互に発電されます。つまり、出力は回転子の回転に応じた円の関数となり、出力を時間の関数で表すと正弦波になります。また、1秒間にプラスもしくはマイナスが現れる回数が周波数です。
周波数とインバーター
周波数は西日本では60Hz、東日本では50Hzですが、この周波数は基本的に発電機の回転数に依存します。50Hzが安定して出力されているということは、回転子が1秒間に50回していることになります。
西日本と東日本では周波数が異なりますが、基本的に機器類は周波数が異なると上手く動作しない場合があります。しかし、ヘルツフリーの機器では西日本の周波数でも東日本の周波数でも問題なく使用できますが、これは機器内で周波数を変換しているからです。このような周波数を変換する装置をインバーターと言いますが、このインバーターがポータブル電源の正弦波出力を行っています。
様々な出力波形
交流と直流間の電流戦争
電気には一般的に直流と交流があります。歴史的には電気が普及する黎明期である1880年代に、送電方式を直流にするか交流にするかについてアメリカで激しい争いが起こりました。現在で言う電流戦争です。この争いの矢面に立っていたのが発明王のエジソンや電気技師であるニコラ・テスラなどでした。
エジソン側は直流を主張し、ニコラ・テスラ側は交流を主張し、両陣営は激しく争いました。結局、この電流戦争はニコラ・テスラ側の交流に軍配が上がり現在も交流が使用されています。
実際に発電所では交流が発電されますので交流のまま送電した方が容易ですし、3相にして送電の際の電線の数を減らせ、何よりもトランスを使用することで昇圧や降圧と言った電圧の制御が容易になるなどメリットは多いので当時としては交流の選択は現実的な選択でした。
一方で、当時の電化製品は電灯やヒーターなど直流で動作する物が多く、直流のニーズは多かったですし、何よりも直流は送電回路が単純ですので交流と直流の戦いはマスメディアを巻き込んで苛烈を極めました。
直流と交流と電気機器の動作
このように交流の標準化には歴史的な背景があり、現在では世界的に交流により送電が行われています。この直流と交流で厄介な点は直流でないと動作しない電気機器もあれば、交流でないと動作しない機器もあることです。さらに、交流では交流用のモーターのように周波数により動作が変化する機器もあります。これにより、直流と交流、交流の場合は周波数を間違えて使用すると機器が破損する恐れがあります。
交流の波形種類
ここまでが一般的な話ですが、より詳細に説明しますと交流の波形には正弦波の他にも矩形波や修正正弦波、のこぎり波、三角波があります。矩形波の矩形とは長方形を指し、この長方形を等間隔で並べたような形状をしています。
修正正弦波はこの矩形波を重ね合わせて正弦波の形状に近づけたものです。のこぎり波はそのまま三角形をのこぎり状に並べた形状、三角波は上下逆の三角を並べた形状となっています。
このように交流を使用する場合は周波数に加えて実は波形も考慮しなければなりません。基本的に機器類は正弦波に合わせて設計されていますので、正弦波であれば問題なく使用できます。
家庭用のコンセントの電気は正弦波ですので特に気にすることはありませんが、ポータブル電源では正弦波ではなく、矩形波もしくは修正正弦波の場合がありますので注意が必要です。
これらの交流波形は直流電流をコンバーターにより交流にすることで作り出されますが、矩形波や修正正弦波を作り出すコンバーターの方が正弦波を作り出すコンバーターよりも安いために電源の原価を抑える目的で矩形波や修正正弦波を出力しているポータブル電源もあります。もちろん、Jackeryのポータブル電源の出力は正弦波ですので安心してご使用いただけます。
出力波形の機器への影響
ポータブル電源はリチウムイオン二次電池に電気を蓄えています。このリチウムイオン二次電池からは直流が出力されます。家庭用電化製品の入力は交流ですので直流のままでは使用できません。このため、ポータブル電源には直流を交流に変換するインバーターが組み込まれています。
インバーターと聞くと、複雑に感じるかもしれませんが、単純にスイッチのオンとオフで考えてみるとわかりやすいです。直流回路に直列で接続されているスイッチをオンにした状態では直流電流が流れ続けます。スイッチをオフにすると電流はストップします。再びスイッチをオンにすると再度電流が流れます。このスイッチのオンとオフを等間隔で行うと矩形波が出来上がります。インバーターはこのようにして直流から交流を作り出しますが、正弦波を作り出す回路は波形を平滑にしてより正弦波に近づけるように設計されています。
ここで着目して欲しい点は、正弦波以外の波形は幾何学的な形状をしており、滑らかな曲線とはなっていません。ヒーターなど単純な機器では正弦波でも修正正弦波でもどちらを使用してもあまり変わらない場合が多いですが、スイッチのオンとオフで作り出されたような矩形波を交流モーターに流してしまうと正弦波に比べて滑らかな回転は得られません。他にも、精密機器に矩形波を入力してしまうと故障や劣化、動作不良の原因になってしまう場合があります。このような機器では正弦波を使用する必要があります。
一方で、直流で使用する機器類は正弦波以外でも使用できます。これは、入力の交流が直流に変換されて使用されるからです。このような交流を直流に変換する装置をコンバーターと言いますが、入力の矩形波はコンバーターにより直流に変換されてしまうので、コンバーターを通せば矩形波も正弦波も関係なくなります。
どの機器が大丈夫で、どの機器が使用不可なのか、想像で考えるよりも実際のところ使ってみないと分からない場合が多いです。このため、電化製品に詳しくない限りは正弦波を出力するポータブル電源を使用した方が無難だといえます。
以上より、ヒーターや電灯、直流に変換して使用する機器類などは波形の影響はほとんど受けませんが、精密機器類やモーターなどは受けてしまいます。ただ、最近ではどこに精密機器が使用されているか分からない機器も多いので、想定外のトラブルを避ける意味でも正弦波を出力するポータブル電源の使用が好ましいと言えます。このため、ポータブル電源を購入する際は交流出力が正弦波や純正弦波と書かれたタイプを選択することをお勧めいたします。
まとめ
ポータブル電源には家庭用コンセントの交流と同じ正弦波を出さないタイプがあり、正弦波を出さないタイプを使用すると電子機器が上手く動作しない可能性があります。
ご家庭で使用する電化製品は正弦波を前提にして設計されていますので、ポータブル電源を使用する際には電化製品の予期せぬ破損を未然に防ぐという意味でも正弦波を出すタイプを選択されることをお勧めいたします。
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