テレビ番組とWebメディアの連動で新しいコンテンツビジネスを 「ハピキャン」編集長・事業マネージャー 大西真裕氏

テレビ番組とWebメディアの連動で新しいコンテンツビジネスを 「ハピキャン」編集長・事業マネージャー 大西真裕氏
テレビ番組とWebメディアの連動で新しいコンテンツビジネスを 「ハピキャン」編集長・事業マネージャー 大西真裕氏

キャンプを紹介するWebメディアは、ここ数年で一気に増えたが、その中で独自の存在感を放っているのが、名古屋テレビ(以下、メ~テレ)が運営しているWebメディア「ハピキャン」だ。キャンプに関する専門的なコンテンツに加えて、メ~テレのキャンプ番組「おぎやはぎのハピキャン」とWebを連動させるという革新的な取り組みを行っているのだ。一体どんな経緯で「ハピキャン」は誕生したのだろうか、編集長で事業マネージャーである、メ~テレの大西真裕さんに話を伺ってみた。

カメラマンから番組プロデューサーに

カメラマンから番組プロデューサーに

「おぎやはぎのハピキャン」というテレビ番組を放送しながら、Webのメディアを立ち上げ、それをコンテンツビジネスとして事業化していく。WebメディアとYouTubeの組み合わせは聞いたことあるが、テレビ番組との組み合わせは、かなり異色と言えるだろう。

この「ハピキャン」を立ち上げたのがWebメディアの編集長・事業マネージャーを務める、メ~テレの大西さん。大西さんは大学卒業後に1999年に新卒で技術職としてメ~テレに入社した。

「カメラマンをやりたくて入社しました。当時、テレビはアナログ放送からデジタル放送に切り替わる時期で、最初に配属されたのがそのデジタル放送への切り替えに携わる部署でした」

技術者として、一大プロジェクトに取り組む業務に関わった大西さんは、入社から8年後に、念願だったカメラマンに。その後情報技術部門に従事した後、番組制作部門へ突然の異動、バラエティ番組のプロデューサーに抜擢された。

カメラマンから番組プロデューサーに
カメラマンから番組プロデューサーにー大西真裕さん

「なんで選んでもらったかは分からず最初は不安ばかりでしたが、花形の仕事ですし、自分がやれることから考えました。当時、すでにテレビは『オワコン』なんて言われていましたが、多くのリソースをかけて作り上げるリッチコンテンツの力は確実にあると思っていました。やっぱりテレビが好きだったのと、何より番組スタッフの助けがあって、なんとか『番組プロデューサー』をやらせてもらってました」

当時から、メ~テレの中ではテレビ番組のコンテンツビジネスというミッションは掲げられており、例えば作った番組を全国のテレビ局に販売する、動画配信プラットフォームに販売するなど、いわゆる「番組販売」という方法がある。しかし、そういったチャレンジをしながらも、大西さんはそれだけではコンテンツビジネスとしては成立しないことを実感していた。

そんな中、2018年に東京転勤の話が決定。東京でさらなるコンテンツビジネスの強化という大きなミッションを背負うことになる。

「もっと『番組を生かす』形で事業を考えることができないかと考えていた時に、広告におけるデジタルシフトの大きな波や、いわゆるWeb系メディアの勢いが出てくる中で、何ができるのか、というのが会社としても大きな課題になっていたので、こういった要素も踏まえた何かができないかなと考え始めました」

そこで目を付けたのが当時増えていた特定のジャンルに絞った形で情報を発信する「特化型サイト」だった。

「当時は考えも甘く『まぁ、これくらいならできるのでは?』と軽く考えていて、あとでこの甘さから痛い目を見るわけですが、さらに、この特化型サイトを盛り上げるために番組も作ってしまえば、最強なのではないかという考えがありましたね。そして、どういったジャンルがいいかを探す作業にはいりました」

そこで大西さんが選んだのが「キャンプ・アウトドア」だった。

カメラマンから番組プロデューサーに
大西真裕さん

当時、東京ではすでに大きなキャンプブームがきていた。さらに伸びていくのはある程度みえていたのと、キャンプ・アウトドアに決めた理由は「良い意味での公私混同にある」と語る。

「自分の子供とこれから何をやりたいかを考えた時に浮かんだのが、キャンプだったんです。昔は仕事では公私混同は良くないとされていたけど、働き方も多様化している中で、どうやって良いコンテンツを作っていくのかを考えると、自分がプライベートの時間にも情報を追っているぐらいハマっているものをコンテンツ作り(仕事)に持ち込むことも、これからは必要ではないかと。自分に都合よく言ってるだけですが(笑)」

「特化型サイト」のジャンルをキャンプ・アウトドアに決めたところで、別の動きとして社内では「新番組」企画の検討も行っていた。そこであるディレクターが起案した企画が「キャンプ」だった。

「(起案した)彼は同い年でとても優秀な演出家。よく相談もしていたいわゆる同志。そんな彼の企画も『キャンプ』。もうジャンルはこれしかないと思いましたね(笑)。彼は、現在も『おぎやはぎのハピキャン』の総合演出として一緒にハピキャンを盛り上げてくれています」

キャンプ・アウトドアジャンルで進めることを決めた大西さんは、Webメディアを中心に立て、そのメディアのスーパーリッチコンテンツとしてテレビ番組も制作するという「ハピキャン」の事業計画をコンテンツビジネスとして会社に提案。新たな試みとしていよいよ「ハピキャン」立ち上げへと動き始めるのだった。

誠実なメディアづくりを目指して

誠実なメディアづくりを目指して

いざ動き出すにあたって、大西さんはとにかくキャンプ関連の雑誌を読み漁ったという。その中で印象に残ったのが「fam_mag(ファムマグ)」という父親と子供の外遊びをコンセプトに据えたキャンプ雑誌のある特集記事だった。

「キャンプチェアの紹介記事だったのですが、同じチェアを父親と子供が座って、それぞれの座り心地や目線などをとても丁寧にまとめた記事でした。その企画と視点に強い共感を覚えてこんな素晴らしい記事を作った人に会いたいと思って調べたところ、担当者が編集長の槻 真梧(けやき しんご)氏だったんです。当時、苗字の読みも分からなかったのを覚えてます(笑)」

早速、アポイントを取って槻氏と会い、『ハピキャン』の構想について熱く語った大西さん。話をするうちに槻氏もファッションやモノ系などいろいろなジャンルの雑誌、書籍を担当していたが、子供と楽しめるキャンプ雑誌を新たに立ち上げたという大きな経験をしていて、すっかり意気投合し、槻さんにハピキャンの監修を依頼することになったという。

「とにかく暑苦しく僕の思いを浴びせかけてたと思います(笑)。そんな話をほんとに真摯にそして謙虚な姿勢で聞いてくれたのを覚えてますね。あぁ怖そうな見た目だけどナイスガイだな、と(笑)そして余談ですけど、槻さんはスニーカー好きだったんですよね。僕もスニーカーが好きなんですが、会った瞬間に槻さんが僕のスニーカーに目線をやったのが分かったんですよ。もちろん僕も槻さんのスニーカーを見てました。槻さんがハピキャンへの協力を快諾してくれた後に雑談をしていて分かったんですが、以前に僕が読んでいたスニーカーの本を槻さんが編集していたり、有名なスニーカーショップのムックを作っていたりと、そういう点でも価値観がバチン!と合いましたね。音がしてたと思います(笑)」

誠実なメディアづくりを目指して
誠実なメディアづくりを目指して

槻氏を「ハピキャン」の監修に迎えたことで、これまで漠然としていた、番組やコンテンツ作りの目指すべき方向性も決まり、次はいよいよWebメディアの立ち上げに向けて動き出すことになった。

安定した運営とリソース、ノウハウ獲得のために、まずはライターネットワーク構築と記事制作は業務委託をして、タイミングを見て内製化する計画を立てた。そして上位検索を目指す、いわゆるSEO記事を集めることからスタートしたという。

「こちらはWebの記事も、もちろんSEO対策についても素人なので、とにかく勉強の毎日でした。本を読んだりWeb界隈の経験者にお話を聞いたり。並行して記事を集めていくわけですが、できあがった原稿を読むと、自分が納得できるレベルではまったくなかったんです。『SEO記事はそんなものだ』という意見もありましたが、自分が読みたいと思えないものを『ハピキャン』として世に出して読んでもらえるわけがない、と編集にカロリーをかけることで、なんとか記事を集めていました」

そんな状態が続く中、これではいけないと判断し、当初の予定を変更、業務委託はやめて、自分たちでライターを集め、記事を作る方向に切り変えた。

また、もう一つこだわったのが、掲載画像の許可取りだった。

「編集部内ではチェックに時間と手間がかかるので止めた方がいい、という意見もありました。それでも、会社としてのリスクもありますし、何より誠意のあるメディアでないといけないと思いました。メ~テレが運営している以上、信頼できるメディアにすることは必須条件だと思い、工数がかかっても丁寧な作業をするようにしましたね」

こうして、2019年2月末に「ハピキャン」Webメディアをローンチし、「おぎやはぎのハピキャン」は同年3月にパイロット版の放送、4月からはもレギュラー放送を開始。Webを中心にテレビ番組も連動させた「複合メディア」をスタートさせた。

 「ハピキャン」編集長・事業マネージャー 大西真裕氏
メ~テレの大西真裕さん

「ハピキャン」の知名度が全国区に

「ハピキャン」の知名度が全国区に

番組起案者がMC案に上げてくれていたのが、おぎやはぎだった。

彼らの経験と予定調和のない率直なキャラクター、どんな人と一緒になっても楽しい化学反応を起こしてくれるところに大西さんも大きな期待があったという。

「今でも忘れられないのがパイロット版のオープニングです。おぎやはぎさんが『誰もキャンプをやりたいって言ってないんだけどなぁ~』って言ってくれたんです(笑)。そぉ!それ!!ってなりました。それでいいんです。そういう人たちがハピキャンを通して、結果、楽しいって思ってくれればいい。僕もそれを見た視聴者、読者の皆さんが、Webメディアや番組を通して、キャンプを好きになってくれたらこんな最高なことはないです。」

「おぎやはぎのハピキャン」は、メインのおぎやはぎに加え、プレゼンキャンパーやゲストを呼び、番組に毎回さまざまな彩りを添えている。

順調にスタートを切ったテレビ番組に対して、Webメディアの方は伸び悩んでいた。

「立ち上げたばかりの頃は、当たり前ですが、誰も見に来ない。0ページビューなわけです。最初は訪問者もほぼ0で、気になって数時間おきに見ても、訪ねてきてくれる人が1とか2なんです。これはメディアって言うの?と思いました。最初の2年は赤字覚悟の事業計画でしたし、甘くはないのも分かっていましたが、もう少しスムーズにいくかと思っていて・・・。まったく結果が出ない日々は本当に辛かったのを覚えてます」

そうした中で他のWebメディアにはない「ハピキャン」だけの強みが、テレビ番組の存在であることに改めて立ち返り、このスーパーリッチコンテンツをもっと活用すべきと考えた。

「テレビ番組のロケという、大きなリソースをかけているものをもっと有効活用しなければと思いました。ロケの内容を密着記事としてwebのコンテンツにするのはもちろん、人数と道具が揃うその機会を利用して何が作り出せるかをとにかく考えました」

また、事業として動かすには、1回のロケで生み出す番組本数も考えなくてはならなかったという。例えば、大西さんが関わっていた過去番組では月に2回ロケを実施し、1回のロケで「2本撮り」を行えれば週一のレギュラー番組が賄える計算になる。

しかし「ハピキャン」では、事業として、費用対効果を上げるために、番組制作費を抑える必要があった。

「スタート当初は4本撮りをお願いしました。番組制作チームにとっては難題だったと思います。さらに、2年目にはコストを抑えるために、6本撮りに。これには番組制作チームも本当に苦労したと思います。みんな怒ってたでしょうね。でも『ハピキャン』は事業であり、そして「新しい制作の形」をつくる必要があることを丁寧に伝え、理解してもらいました。一回のロケで30分番組を6本作るために、番組制作チームは全力で汗をかいてくれています。企画、構成、ゲスト案、さらにはwebメディアなど事業連動、タイアップ。番組制作チームには本当に感謝しています」

こうして育てていった「ハピキャン」の知名度を大躍進させたきっかけがあった。

「2020年にYouTubeに『ハピキャン』の過去作公開をスタートしました。当時、YouTubeで公開するには、YouTube用に再編集するのは必須、という意見が多かったのです。テレビ用に編集したコンテンツは絶対まわらない、と多くの人に言われました。でも、再編集予算もないわけです。もうダメならダメで受け入れようという覚悟から、地上波で放送した番組をそのまま公開しました。嘘ではなく、なんか根拠のない自信はあったんです。番組制作チームが作ってくれてる「おぎやはぎのハピキャン」はやっぱり面白かったので。もしもダメだったらおぎやはぎさんにも謝りに行こう、なんてことも思っていました(笑)」

大西さんの不安を吹き飛ばすほど、再生回数は想像を超える伸びを見せ、2022年8月の時点でパイロット版は約380万再生、チャンネル登録者も約24万人まで増えるほどのチャンネルになったという。

さらにYouTubeにはリンクを貼れるためWebメディアへの誘導もうまくいった。同時に系列各局での放送も増えて、「おぎやはぎのハピキャン」いまでは27局、36都道府県でオンエアされている。

「メ~テレという東海エリアの地方局のコンテンツなのに、全国で『ハピキャン』をご存じの方も増えてきているのを実感し、本当にありがたいですね。さらに合わせてwebメディアの認知度も大きく上がりました」

認知度の広がりを肌で感じられるようになったのだ。

大西さんの考えるキャンプの未来像

大西さんの考えるキャンプの未来像

大西さんの考えるキャンプの未来像
大西さんの考えるキャンプの未来像

キャンプブームと言われて数年が経った。これからの未来像について、大西さんはどう考えているのだろうか。

「キャンプには衣食住のすべての要素が含まれています。つまりライフスタイルのひとつになり得るわけです。レジャー、エンタメ要素もあるし、さらには環境、教育にも繋がります。ブームはブームである限り、必ず終わるので、キャンプブームが去った時にどれだけ生活に密着したライフスタイル寄りになっているか、キャンプ・アウトドアに触れている人の数をなるべく厚くしておくことがポイントになると思います。本当の意味でカルチャーにする、ということだと思います」

また、キャンプの番組を続ける中で気づいたことがあるという。

「キャンプは、手段であり目的にしない方がいいと思っています。もちろん、そういう時期もあっていいとは思います。でも、外で美味しいご飯を食べたい、外遊びがしたい、アウトドアファッションを楽しみたい、釣りに行きたい、外で美味しいお酒を飲んでそのまま寝たい!キャンプでコンパしたい!とか、何でもいいんです。キャンプは目的を達成するために、その時間を快適に過ごすための手段なんだと思います」

ハピキャンの正式名称は「HAPPY CAMPER(ハッピーキャンパー)」。キャンプが目的ではなく、あくまでキャンプ・アウトドアに触れている人たちがハッピーを感じてくれたら嬉しい!という思いがこもったメディアなのだ。

「キャンプのいちばんの楽しさは“体験する”ことです。本質は自然を体全体で感じ、モノを大事にし、自分や友だちや家族、人に向き合って、大切にすること、そこに幸せを感じることだと思います。『ハピキャン』を通じてやりたいのは、そういった環境やコミュニティ、フィールドを作ることですね。子供たちに自然の豊かさや仲間の大切さを伝え、彼らの人生の満足度が上げられたら最高です。ちょっと綺麗に言い過ぎましたが、本気で思ってはいます(笑)」

キャンプ・アウトドアの楽しさをWebと地上波で発信し、それらを通じて大切なことを伝えたいと言う大西さん。その視線の先にあるのは、キャンプ・アウトドアを楽しむ人たちの笑顔なのかもしれない。

キャンプ・アウトドアの楽しさ
キャンプ・アウトドアの楽しさ

メ~テレの9月のイベントにJackeryが
ブース出展決定!

メ~テレの9月のイベントにJackeryが
ブース出展決定!

メ~テレの9月のイベントにJackeryが ブース出展決定!

【イベント概要】
イベント名:「ドデ祭(どでまつり)」 ※入場無料
開催日:2022年9月24日(土)・25日(日)
時間:午前10時~午後7時 ※雨天決行、荒天中止
開催場所:久屋大通公園  エディオン久屋広場・エンゼル広場(名古屋市中区栄3丁目)
主催:メ~テレ
公式HP:https://www.nagoyatv.com/dodematsuri/

Jackeryがハピキャンに登場した回の動画はこちら


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