1.そもそも、温帯低気圧と熱帯低気圧とは?
まず低気圧とは「周りよりも気圧が低くなっている空気のかたまり」のこと。隣りどうしの空気は常にお互い押しあっており、外から押す力のほうが強くなると内側に空気が押し出されます。このとき、押す力の弱い内側が「低気圧」となるわけです。

つまり低気圧の空間では、風は周りから中心に向かって吹き込みます。そして、集まった空気が行き場をなくしてしまい、上へ上へと上昇。この空気が雲となり、雨を降らせます。これが天気予報で「低気圧が近づくと天気が崩れる」と言われる理由です。
なお、気圧の数値はヘクトパスカル(hPa)で表されます。ざっくりいうと、ヘクトパスカルの値「1013.25hPa」を基準として、これより小さいほど「強い低気圧」。激しい雨や風となっていることが多いです。
そして、低気圧は主に「温帯低気圧」と「熱帯低気圧」の2種類に分けられます。その違いを見ていきましょう。
●温帯低気圧:温帯で発生する低気圧
温帯低気圧は、日本を含む中緯度の「温帯」と呼ばれる地域で発生する低気圧です。温かい空気と冷たい空気がぶつかる場所(前線)でできることが多く、天気図では渦を巻いたような形で表されます。

引用:気象庁
春や秋によく見られる低気圧はこのタイプで、西から東へ移動するのが特徴です。発達すると広い範囲に雨をもたらします。
●熱帯低気圧:亜熱帯~熱帯の海上で発生する低気圧
熱帯低気圧は、赤道に近い「熱帯」や「亜熱帯」の暖かい海の上で生まれます。海水温が26℃以上の海域から発生し、海から得る熱エネルギーによって成長していくのが特徴です。

引用:気象庁
熱帯低気圧が発達すると台風になります。台風は強い熱帯低気圧の一種です。中心部分に台風の目ができ、強い風と激しい雨を伴います。
2.温帯低気圧と熱帯低気圧の違い
温帯低気圧と熱帯低気圧には、発生場所や構造、もたらす影響などに大きな違いがあります。具体的な違いを表にまとめてみました。
項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
発生場所 |
中緯度(30°〜60°)の温帯地域 |
熱帯・亜熱帯(赤道〜30°付近)の海上 |
発生条件 |
暖気と寒気がぶつかる場所 |
海水温26℃以上の暖かい海域 |
構造 |
「前線」を持つ |
同心円状の構造 |
エネルギー源 |
寒気と暖気の温度差 |
暖かい海面からの水蒸気と熱 |
移動方向 |
主に西から東へ |
最初は西へ、後に北上することが多い |
季節性 |
一年中(とくに冬~春) |
夏~秋に多い |
雨の降り方 |
前線に沿って帯状に |
渦を巻くように激しく |
風の強さ |
穏やかな傾向がある |
強い |
以下で、温帯低気圧と熱帯低気圧の違いを詳しく見ていきましょう。
違い①発生場所
温帯低気圧と熱帯低気圧は、そもそも発生する場所が大きく異なります。
項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
発生する緯度 |
中緯度帯(30°〜60°) |
熱帯・亜熱帯(赤道〜30°付近) |
主な発生場所の特徴 |
寒気と暖気の境界(前線帯) |
海面水温26℃以上の暖かい海上 |
日本周辺での発生場所 |
本州南岸、日本海側、オホーツク海 |
主にフィリピン東方の海上 |
発生に必要な条件 |
温度差(寒気と暖気の衝突) |
暖かい海面からの熱と水蒸気の供給 |
日本に影響を与える温帯低気圧は冬から春にかけて多く、とくに本州の南岸や日本海側での発生が目立ちます。暖気と寒気がぶつかり合う帯状の「前線」をともない、温度差が大きくなる季節の変わり目に活発になる傾向です。
一方、熱帯低気圧は海水温が高い場所でしか発生しません。このため、日本周辺では直接発生することはほとんどなく、フィリピン東方などで発生したものが北上してくるパターンがほとんどです。7月から10月に発生が集中し、とくに8〜9月がピークとなります。
違い②構造・前線の有無
温帯低気圧と熱帯低気圧は構造がまったく異なります。
比較項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
全体の形状 |
非対称(いびつな形) |
ほぼ円形(同心円状) |
前線の有無 |
あり(温暖前線と寒冷前線) |
なし |
構造の特徴 |
前線に沿って雲や雨が分布 |
中心の「目」と周囲の「壁雲」 |
温帯低気圧では、暖気と寒気がはっきりと分かれており、その境目が前線です。
引用:気象庁
暖気が寒気を押し返しながら進む「温暖前線」では広い範囲で長時間の雨が降ります。一方、寒気が暖気を押し上げながら進む「寒冷前線」では冷たい空気が暖かい空気の下に入り込むため、短時間の激しい雨や雷雨を伴うことが多いです。
熱帯低気圧には前線がなく、中心部には「目」と呼ばれる比較的晴れた空間があります。その周囲には「壁雲」と呼ばれる激しい雨と風の領域が取り囲み、さらにその外側には「レインバンド」と呼ばれる螺旋状の降雨帯が広がっています。
この同心円状の構造が、熱帯低気圧の特徴的な見た目を作り出しています。
違い③移動方向
温帯低気圧と熱帯低気圧は移動のパターンも大きく異なります。これは大気の大循環の違いによるものです。
比較項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
基本的な移動方向 |
西から東へ |
最初は西へ、後に北上 |
日本付近での典型的な経路 |
中国大陸→日本海→北日本→太平洋 |
フィリピン東方→沖縄→九州→本州 |
平均的な移動速度 |
約40km/時前後(速い) |
約15〜25km/時前後(比較的遅い) |
移動の規則性 |
規則的に動くことが多い |
進路予測が難しい |
温帯低気圧は中緯度帯で強く吹く偏西風の影響を受け、ほぼ西から東へ移動します。日本付近では、冬に多い「西が高く東が低い」の気圧配置のときに、日本海を通過する低気圧が多く見られます。これが日本海側に、低気圧がよく大雪をもたらす要因です。
熱帯低気圧は熱帯域では東から西へ流れる貿易風の影響で西向きに移動します。しかし、北上するにつれて偏西風の影響を受けるようになり、やがて北東方向へ向きを変えます。
引用:気象庁
台風がまるでブーメランのように動き、進路予報が難しいのは、この方向転換のタイミングや角度を正確に予測するのが難しいためです。
違い④季節性
温帯低気圧と熱帯低気圧は発生しやすい季節が異なります。
比較項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
発生する季節 |
一年中(とくに冬から春) |
夏から秋(7〜10月が中心) |
季節的な特徴 |
冬:最も発達する 春:春一番をもたらす 梅雨:梅雨前線上に発生 |
7月:台風の北上が早い 8〜9月:発生数が多い 10月:大型化しやすい |
日本への影響時期 |
年間を通じて影響あり |
主に7〜10月に影響が大きい |
温帯低気圧は一年を通じて発生しますが、とくに冬から春にかけて発達します。気団の温度差が大きくなる冬は活発で、日本付近を通過する低気圧の数も多いです。春には「春一番」と呼ばれる強い南風をもたらすこともあります。
▲2月の天気図例。気圧の数値が低い(=強い風が吹きやすい)温帯低気圧が多く発達している
※このあとの8月の天気図の例と比較すると、気圧の数値が明らかに低いことが分かる
引用:気象庁
熱帯低気圧は海水温に強い影響を受けるため、日本付近では夏から秋にかけて発生しやすいです。一般的には7月から10月に台風の接近が集中し、とくに8月から9月がピーク。これは熱帯低気圧が主に発生する熱帯域にあたる、「北西太平洋」の海水温がもっとも高くなる時期と一致しています。
▲8月の天気図例。北西太平洋(日本の南側)に熱帯低気圧や台風が発生している。温帯低気圧の気圧の値は高め
違い⑤雨の降り方
温帯低気圧と熱帯低気圧では、もたらす雨の特性も大きく異なります。
比較項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
雨の降り方 |
前線に沿って帯状に降る |
渦を巻くように円形に降る |
雨の強さ・降り方 |
温暖前線付近:広範囲で長時間の雨 寒冷前線付近:狭い範囲で短時間の強い雨 |
壁雲:狭い範囲で猛烈な雨 レインバンド:断続的に強い雨 |
温帯低気圧による雨は前線の位置に大きく影響されます。温暖前線の北側では、暖かい空気が冷たい空気の上をゆっくり滑り上がるため、広い範囲で長時間の雨となります。一方、寒冷前線付近では、冷たい空気が暖かい空気の下に急速に入り込むため、短時間に強い雨が降りることが多いです。
熱帯低気圧による雨は、「壁雲」と呼ばれる中心付近の雲による猛烈な雨と、「レインバンド」と呼ばれる螺旋状の雨雲帯による断続的な強い雨が交互にきます。いわゆる台風でいう「目」にあたる中心部分は晴れていることもありますが、その周囲ではとても強い雨が降るという極端な状況になることが多いです。
違い⑥風の吹き方
温帯低気圧と熱帯低気圧では、風の強さや吹き方も大きく異なります。この違いが災害の種類や規模に影響します。
比較項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
風の強さ |
穏やかな傾向がある |
強い |
風が強い場所 |
前線付近や低気圧の南側 |
中心から少し離れた壁雲付近 |
風向の特徴 |
場所によって異なる (南側:南寄りの風 北側:北寄りの風) |
低気圧の周りを反時計回り (北半球の場合) |
最大風速の目安 |
20m/s未満のことが多い |
17.2m/s以上 台風に発達すると50m/s以上になることも |
温帯低気圧による風は、前線付近や低気圧の南側で比較的強くなりますが、熱帯低気圧と比べると全体的に穏やかなことが多いです。ただし、「爆弾低気圧」と呼ばれる急速に発達する温帯低気圧の場合は、台風並みの強風になることもあります。
そして熱帯低気圧は中心部分の風は弱い一方、その周囲の「壁雲」付近では非常に強い風が吹くのが特徴です。
3.台風と温帯低気圧・熱帯低気圧は何が違う?
台風は私たちにとって身近な気象現象。しかし、その正体や温帯低気圧・熱帯低気圧との関係を説明できる人は多くないでしょう。ここでは台風の正体と、温帯低気圧・熱帯低気圧との違いを解説します。
●台風は熱帯低気圧が発達して、最大風速が17.2m/s以上になったもの
台風は熱帯低気圧の一種です。熱帯低気圧の中でも、風が特に強くなったものを台風と呼びます。気象庁によると、熱帯低気圧は以下のように分類されています。
・熱帯低気圧:最大風速が17.2m/s未満
・台風:最大風速が17.2m/s以上
・強い台風:最大風速が33m/s以上
・非常に強い台風:最大風速が44m/s以上
・猛烈な台風:最大風速が54m/s以上
つまり、台風はすべて熱帯低気圧ですが、熱帯低気圧のすべてが台風というわけではありません。風の強さによって区別されているからです。
●「台風が温帯低気圧に変わった=最大風速が17.2m/s未満になった」ということではない
天気予報で「台風が温帯低気圧に変わりました」というフレーズをよく耳にします。これは単に風が弱くなったという意味ではありません。台風の構造そのものが変化することを意味します。具体的な変化は以下のとおりです。
変化の内容 |
台風(熱帯低気圧) |
温帯低気圧化後 |
構造 |
同心円状の構造 |
前線を持つ構造に変化 |
中心の特徴 |
台風の目がある |
目がなくなる |
エネルギー源 |
海面からの熱と水蒸気 |
暖気と寒気の温度差 |
温帯低気圧化しても、風速が17.2m/s以上を維持することもあります。熱帯低気圧と温帯低気圧はまったく別の分類となっており、風の強さは関係ないわけです。
●台風が温帯低気圧に変わる理由
台風は赤道付近の暖かい海上で発生。その後北上するにつれて以下のような変化が起こり、温帯低気圧に変わります。
1.海水温の低下:海水からの水蒸気が減り、台風へのエネルギー供給が減る
2.中緯度の冷たい空気との接触:温かい空気をまとった台風の周りに前線が形成される
3.偏西風の影響:上空の強い風により台風の上層と下層が引き離される
ただし、台風が温帯低気圧に変わっても、「爆弾低気圧」のように急速に発達するケースも少なくありません。爆弾低気圧は台風級の強い雨や風をともないます。温帯低気圧に変わったからといって、油断してはいけません。
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4.温帯低気圧・熱帯低気圧や台風は停電の原因にも!Jackeryのポータブル電源で対策しよう
温帯低気圧や熱帯低気圧(台風)は強風や豪雨によって電線を切断したり、電柱を倒したりすることがあります。広範囲にわたる停電が発生し、不便な生活を強いられるケースも少なくありません。
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まとめ
温帯低気圧と熱帯低気圧の違いについて解説しました。主な違いをおさらいします。
項目 |
温帯低気圧 |
熱帯低気圧 |
発生場所 |
中緯度(30°〜60°)の温帯地域 |
熱帯・亜熱帯(赤道〜30°付近)の海上 |
発生条件 |
暖気と寒気がぶつかる場所 |
海水温26℃以上の暖かい海域 |
構造 |
「前線」を持つ |
同心円状の構造 |
エネルギー源 |
寒気と暖気の温度差 |
暖かい海面からの水蒸気と熱 |
移動方向 |
主に西から東へ |
最初は西へ、後に北上することが多い |
季節性 |
一年中(とくに冬~春) |
夏~秋に多い |
雨の降り方 |
前線に沿って帯状に |
渦を巻くように激しく |
風の強さ |
穏やかな傾向がある |
強い |
また、台風は熱帯低気圧の一種で、最大風速が17.2m/s以上のものを指します。台風が北上すると環境の変化により温帯低気圧化することがありますが、これは単に風が弱まるだけでなく、構造そのものが変化する現象。台風と温帯低気圧はまったくの別物です。
温帯低気圧や熱帯低気圧・台風は停電などの災害をもたらすことがあります。Jackeryのポータブル電源を備えておけば、もしもの停電も安心です。温帯低気圧と熱帯低気圧に詳しくなったところで、しっかりと対策もはじめてみましょう。